ハロン湾の静謐

Name: 朝田 光 (2004年2月22日)

Date: 04年2月22日 18時07分19秒

私のハロン湾のイメージはあまりよくなかった。友達から一回行くのはいいけどそれ以上のことは無いと言われていたからである。余り期待しないのが良かったのかもしれない。また今のスケジュールに追い掛け回されているのが良かったのかもしれない。ベトナムに来てこんなにゆったりとした時間が与えられるとは思わなかった。
確かにハロンの街から船に乗って6時間。ただゆったりと時が過ぎていく。これだけでも感激なのだが、さらに見える先は大小2000ほどの小島が目の前に現れる。その一つ一つが奇岩というには惜しいほどの、芸術性さえ感じてしまう。これら小島を縫ってクルージングをしていると、我が身が膨大な時の流れの中に一瞬身を置いているに過ぎないことが分かって来る。日常の小さな悩みや人間関係などどうでも良くなってくる。
ここの景色の中に埋没すると会話は成立しなくなってくる。さらに島のひとつの中にできた鍾乳洞などまさに圧倒させられると言うよりは、その時間の膨大さが身に迫ってくるようでちょっとしたパニックさえ襲ってきそうな気がする。
圧倒される自然にはやはり人間はかなわない。



ハロン湾はちょうど観光シーズンのオフにあたり観光客も思いのほか少なかった。鳥インフルエンザも影響しているんだろうが、クルージングしている最中も余り多くの船と行き当たることも少なかった。これも良かったのかもしれないが、クルージングしている最中は船のエンジン音以外何も聞こえなかった。飛ぶ鳥さえ少なく思えた。確かに曇天の空はそういった騒々しい雰囲気を嫌っているように、それがかえって哲学的な雰囲気を醸し出し、いきなり「自分とはなにか」の哲学的疑問を突きつけられているようだ。こんなこと薄学な私が考えられるテーマでは無いと分かってはいるが、これだけ自然の長時間にわたる作業、しかも現在も続いている作業場を除いているようで、たとえ人生80年としてもこれら奇岩に対してあまりにも一瞬な時さえ刻めない自分に対して、自信さえ喪失させられるような気もする。こんな時間が与えられるとは思わなかった。昼食の時間でさえ惜しく感じられ、じっとじっとただただ風景を眺めていた。本当に不思議な空間である。

この哲学的なハロン湾ではあるが、しかも世界遺産に登録されているにもかかわらず、沿岸ではゴルフ場、イルカショウ劇場、サーカス小屋などレジャー施設の建設が行われている。確かにベトナムとしてはいかに観光客を誘致するかが大きな問題で投資するのは分かるが、この世界遺産の近くにゴルフ場と来年から建設が始まるカジノ施設に関しては私情ながら、怒りさえ感じてしまう。かつてシェムリップにゴルフ場が建設された時住民運動が起こったと聞いている。これほどの遺産をカジノと抱き合わせでしか楽しめない人はやはり来てもその価値さえ見出せないのではないのだろうか。ゴルフも然りである。ゴルフ場の建設は一種の自然破壊であるから、しかも72ホールも造ると言うのははっきり言わせてもらえば正気の沙汰とは思えない。

人類はどうしてこうもマネーゲームに心を揺らしてしまうのだろう。そんなちっぽけなことは、このハロン湾に横たわる悠久の歴史の中から言えば一瞬より短い出来事。そんな時間単位がこの自然を壊すというのは欺瞞以外何物でもない。

まあここまで書いて、またやってしまったとも思っている。良い良いと書けば書くほど、次に来られる方の期待は膨らみ、その期待とは裏腹に現実が違いがっかりすることもある。こういった旅行記の一番難しいところだ。





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