小説ヴァレンタインズデイの過ごし方

Name: 朝田 光 (2004年2月18日)

Date: 04年2月18日 12時33分11秒

久しぶりの土曜日、しかも昨日が13日の金曜日だと忘れさせるような見事な晴天。こんな中、私は部屋に篭って本を読んでいた。ゴルフに誘われなかったこともあるが、出張続きの体をベッドに沈めてひたすら本を読んでいたかっただけだ。朝からもう2冊を読んでしまい昼食をどうしようと、のろのろ体を起したところで電話がかかってきた。ちょっと知っているサイゴンでは数少ない女性の友人からディナーのお誘いだ。しかしヴァレンタインズデイのことを完全に忘れている彼女の弾丸のような説得にどうも簡単に応じる気にはなれない。まるで野獣が怪我を負った時のように疲れた体を動かせずじっとさせておいたほうが良いと思っていた。しかし午後になればなるほど彼女を含めた複数の女性から説得のメールと電話が入る。その間隙をぬってJapanese Loungeの女の子からも電話が入る。去年までこんなこと一切無かったのだが、今年は土曜日と言うこともあるのだろう皆細かく細かくディナーのお誘いを九十九折のように重ねていく。これではどれかを選択しなければ逃れられない。

結局ホテルのロビーに赴く。「時間通り来てよね」と何回も念を押されたのに、約束の10分過ぎても彼女たちが来る気配も無い。しかし「今日新しい友達を紹介するわ」と言われた、その友達と思しき人がロビーでぽつんと座っている。こちらから「初めまして」などと言える能力もけれんさも持ち合わせが無い。仕方なくロビーラウンジでジンソーダをすすることにした。



私は基本的にジントニックを飲まない。またハードボイルドでよく使われるドライマティーニなど持っての外である。すっきりした飲み口でないものはうまいとは思えない。

15分経って彼女がやってくる。遅れたことに関してあまり意識がないようにも見える。まあ仕方が無い。これも彼女の一つの特技と思うしかない。そこから彼女は私を探す努力をすっかり放棄して、ホテルのベーカリーに駆け込む。どうも日本的習慣とはいえ直前にチョコレートを買われると「義理」とは分かっているが、私のダンディズムがガラガラと音立てて崩れるような気もする。まあ頂けるだけ良しとしなければならない。

その後合流を果たし、どこで食事をするかと言う話になる。彼女たちはベトナム風日本食だの言っていたが、思い切って「餃子屋」と提案してみると、「そうか明日は日曜日だから思い切りニンニクを食べても大丈夫な日だ」と、まことにもってヴァレンタインズデイを髣髴させる発言があり、結局タクシーでそこへ向かうことにした。しかし私たち以外のほとんどのベトナム人は恋人とのヴァレンタインズデイを楽しもうと、街中各所では渋滞の嵐。仕方が無く手短な海鮮鍋にしたが、ますます持ってヴァレンタインズデイらしい夕食になる。そこら中を子供が走り回り、ローカル中華独特の騒音とアジアを感じさせられる喧騒。どれをとってもロマンティックと対極の景色でもある。まあ義理ヴァレンタインズデイパーティーとしては上出来なのだろう。私は刺身の妻だし。こんなものかもしれない。

その後私の行きつけのショットバーに所を移し、ピアノなど聴きながらこじゃれた会話でもしようかと意気込むが、関西方面のある都市での犯罪実態やらなんやらで、話としては面白かったが、どうも場にそぐわない。ピアノを弾いていたピアニストもいつもなら会話の輪に入ってくれるのだが、今日に限れば遠巻きで見ているだけ。

とても楽しい晩であったが、どうもこの日が「恋人が集う記念日」というわけには行かなかった。

ただ彼女たちがくれたホテルのチョコレート寝る前に齧ってみると、少し苦くてほのかに昔を思い出させた。

私の人生など勘違いの連続なのかもしれない。

これはあくまで小説です・・・

(因みに写真はマンダレーです)





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