サイゴン病院の一室から

Name: 朝田 光 (2003年12月8日)

Date: 03年12月08日 14時54分13秒

どうも最近日記風のベト通が増えている。いかんいかん。
さてこの題を見てまたしても朝田が何かをやらかしたのだろうと期待した読者の皆さん、残念でした。私の話ではありません。
ダナンから帰ってきたら携帯がピーヒョロ鳴り始めた。ナンだろうと思って電話に出てみると秘書から私のスタッフが盲腸にかかって今日緊急入院と緊急手術をしたと連絡があった。盲腸ごときと日本の方は思われがちだが、こちらの医療状況、盲腸でさえ命の危険がある。とりあえず手術は無事に終わったと聞いて安心し、今日見舞いに行ってきた。彼女は元々細身で食も細く普段でもおとなしい彼女だが、その彼女がうめき声を立てて苦しんだと言うからかなりひどい状況だったのだろう。秘書に果物篭を買いに行かせ、それを土産に病院まで行ってきた。
病院については何回も書いているが、いつ行っても暗い気持ちになる。今回も病院ということで写真を撮るのは憚れたので風景写真を載せているが、一歩病院に入った瞬間から健康である私も病気になってしまうような雰囲気になる。まずこの暑いサイゴンにもかかわらずクーラーは設置されていない。当然病院内は蒸し暑い。そこを看護士が駆けずり回るものだから、病院全体が変な薬の臭いと汗の臭いが混じったある種の悪臭がする。その悪臭に輪をかけるように廊下中に看護をする家族が何かぼそぼそと食べている。ベトナムの病院は完全不看護システムで、仮に糖尿病であっても肝臓を傷めていても、病院が食事を用意することはない。全て家族が食事を病院まで運ばなくてはいけないのだ。さらに重病の場合は家族が泊りがけで容態の変化を見守り、何かあればナースコールなどではなく、家族がナースセンターまで報告するシステムとなっている。このため病院全体の入院患者に対して2〜3人の家族が看護につくものだから、寝るところのないまた座るところさえない家族が廊下に溢れているわけだ。その家族も飯を食うしトイレも使う。だから薬や汗の臭いもさることながら、何日も看病している家族が放つ臭いが病院の壁に染み付いている。聞いた話によると夜になると階段でさえ家族がゴロゴロと寝ているので危なくて夜中トイレにもいけないとも聞いた。



それでもCTスキャン室やX線室など高度医療設備は完備している国立病院だから、患者は後を絶たない。
やっとの思いでスタッフの所に行き着いたが、そこも10人部屋で一番奥に寝かされていた。盲腸と言うこともありあまり大切には扱われてないような印象を持った。
彼女は細い左手にまだ点滴をされていて心細いせいなのだろう、見舞いに行った私たちの顔を見ると涙ぐんでいた。もちろん看護のために彼女のお母さんも一緒にいたのだけれど、彼女のお母さん、よっぽど疲れているのか目の下に大きなクマを作ってへたへたと座り込んでいた。そこに大部屋には似合わない大きな果物篭を置くと、涙一杯にためた目で私を見ながら彼女は「ありがとう」と蚊の泣くような声でささやいた。もちろん病院にとっても軽症の部類に入るので3日間の入院で後は自宅療養となるらしいのだが、それでもよっぽど入院生活が嫌なのか早く出たいと何回も言った。

ここでまさか「おならが出るまでは退院できないよ」とは言えないので紳士らしく
「早く出られるといいね」と立派な答えを返した朝田であった。





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